碧の逢跡 〜七色の欠たち〜

第3夜 かうんたGET・りくえすと小説

春日より

作:海里 凌様
原作・原案:南野 梅流様

 

1. かくれんぼ

 

 

春日より。

 

新学年に上がって、まだ間もない。
面倒くさいながらもこの時期は、まだなんとなく気が引き締まって、授業にも身が入る。

………筈なのだが。

碧はそう、いかなかった。
8歳にして、すでにサボリ癖がついてしまっていて、今日もまた裏庭で寝そべっていた。
相変わらずそんな自分に対して、幼馴染みの寵(めぐむ)はうるさい。…いないはいないで、なんか物足りないのだが。

 

3年になって1ヶ月くらい経つ。

まだ季節は春の気候で、頭上の木の葉の隙間から、あたたかい陽光(ひかり)が自分にあたる。

(ねむ…)

ひとつ欠伸がこぼれる。
前にも、似たような事が……あった気がする。
木の枝から、鳥が飛びだっていく音が耳にとどく。
もうひとつ欠伸をこぼすと、春の風の子守唄の中、碧は眠りについた。

 

 

 

「…あいつは」

廊下際4番目の自分の席から左に5番目の席を見るなり、寵は溜め息をついた。
結局、4時間目・最後の方から5時間目が始まるまでしかいなかった。

(しょうがないなぁ、碧は…)

全ての授業が終わり、自分の帰り支度を整える。

 

「浦飯」

前扉から別クラスの蛍明(けいあ)が顔を出してきた。
めずらしい。
学校にいる間は、行き帰りのバスで会う程度なのに。

「どうした?」

自分のてさげを肩に下げ、碧の席に足を運びながら蛍明に訊く。
放課後になったばかりで生徒もまだ残っていて、蛍明が見え隠れする。

「…いやぁ、な」
「?」

少し困ったような蛍明に、寵は首を傾げる。
気づいてみると、なんか蛍明のところが騒がしい。

(……まさ、か…?)

キーホルダーがいくつか付いた碧のてさげを手に持ち、不安な面持ちで前扉に向かう。

 

 

「ちょっと、いい?」

扉にたかりはじめたクラスメイトに退いてもらおうと、声をかける。

「浦飯、あいつと知り合いか?」
「妙な格好してるぜ」
「あ…、うん。まぁ…」

訊かれて不安は的中だと、確信した途端。

 

「うっせーなっ! てめぇ等、斬られたいのかっ?!」

魔界にいるはずの蛍明の姉の声が、聞こえた。

(あぁ…、もう)

不安の要素である、蓮(れん)だ。
どうも蓮は育ちが魔界の所為か、ところかまわず愛用の剣を振りまわす。
野次馬の生徒が、思わず後ずさる。

「蓮」

そんな姉を、蛍明は一声で宥(なだ)める。
よく中心世界(人間界)のことを知った妹に言われて、渋々剣を鞘に収める。

「…ふん」

クラスメイトたちが寵に顔を向ける。

「…なんだ? あいつ」
「大丈夫なのか?」
「…や。気にしなくていいから」

心配そうな声に、寵は苦笑気味に言う。
妖怪が中心世界に(いろいろな制限があるとはいえ)出入りしはじめて何十年か経っているのだが、まだあまり知られていない。

 

 

「とりあえず、…外行かない?」
「賛成」

寵の提案に蛍明がつかさず頷く。

「?」

なんでそうなるのか理解できないらしく、蓮は首を傾げた。
話はどこでもいいじゃないか。別にここでも。
そう、思って。

(…いや、やばいから)

無意識に蓮の心を感じ取って、内心寵はツッコんだ。

 

・・・・☆

 

 

 

 

「あお――っ」

まだ、3歳くらいの寵が碧を呼ぶ。
けれど。
一緒に探していたやっぱり3歳くらいの蛍明が、木の後ろから顔を出す。

「うらめし」
「けいあ」

少し困ったような顔して、寵は振り向く。

「みつからないのか?」
「みつからない…」

訊かれて寵は首を横に振る。

「そうか」

叔母ゆずりの蛍明の薄い水色の瞳が、頭上の木の葉の合間から見える青空を映す。

 

「をいっ」

離れたところから、これまた3歳くらいの蓮が走ってくる。

「いたか? あお」

自分らのとこまでくると、蓮も訊いてきた。
普段息切れ知らずの蓮の肩が、上下していた。
答えは同じ。寵は横に首を振る。

「ううん」
「――〜…ど――っこに、かくれたんだっ! あいつはっ!!」

それに蓮はキレる。
それ程、心配しているのだ。
あちらこちらを探したのだろう。蓮の髪先から、汗が数滴落ちる。

 

 

「そろそろ、るなおねぇちゃんがかえってくる…」

空模様を見て、寵は大体の時間の検討をつける。
太陽の位置を見て、蛍明はもうひとりの名前をつけたす。

「くーにいも…だな」
「うん…」

言われて寵はうなずく。
るな=琉那…というのは、寵の5つ上の姉だ。
くーにい=紅光(クラピカ)…は、5つ上の碧の兄。まだ小さい寵たちにはどうしても半濁音は言いにくく、この呼び方が定着しているのだ。
そのふたりは現在小学2年。帰ってくるのは、ほぼ4時過ぎ。

「そうなのか?」

あまり中心世界のことは興味がないので、蓮は首をかしげた。

「………」

なんとなく、寵は不安になる。
このまま見つけられなかったら、どうしよう…?

 

 

もう碧は、何時間もひとりでいる。

どこ…? どこにいる……?

 

 

(どこに、隠れてる―――――?)

 

 

・・・・・・

 

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