〜春の夜の秘密〜
1.
「化け物退治?」
ある日、移動要塞・百足に集められた碧・寵・蓮・蛍明の4人。
集めたのは、かつて魔界の三すくみと恐れられ、今は百足の統率者でもあり、魔界へ迷い込んだ人間の保護の責任者でもあり、また蓮と蛍明の母でもある躯だった。
「ああ。お前らで行ってくれ」
「行ってくれって…」
あっさりと言ってのける躯に、流石の4人も呆気にとられた。
珍しい菓子が手に入ったという、子供しかひっかからないような誘いに乗ったのが、間違いだったか…。
といっても、まだ8歳の彼らは十分子供ではあったが。
「安心しろ。そう遠くない」
「……何処だ」
念の為に聞いてみる蛍明。
親に大して、この口の利き方。
一般常識的に言えばどうかと思うが、しかし親も子も一般常識範疇外なのだから、無理もない。
まだ引き受けると言ったわけではないが、あまりに遠いのならば、学校という口実が使える。
最もその場合、唯一学校に行っていない蓮が一人でやる羽目になりかねないが、まあこの姉ならばうまい具合に逃げるだろう。
「ん。人間界のここだ」
ぽいっと渡された地図。
確かにそれは人間界のものだった。
そして約一名以外、よく見たことのある地図だった。
更に約一名以外、×印のつけてあるそこは、よく知るところだった。
「……おれたちの学校じゃないか、ここ」
「だよな?」
「ああ…」
「そうなのか?」
人間界にはてんで疎い蓮が、お菓子をぱくつきながら、首をかしげる。
「ガッコーって、お前らが毎日行ってる場所だろ? 何で気がつかなかったんだよ」
「毎日ってわけじゃないよ。特に今は春休みだから、10日前から行ってないし…」
「ああ。その化け物、10日前から出るようになったらしい」
そんな都合よく…と思ったが、しかし躯は嘘を言ってるようには見えないし、第一嘘を言う理由などない。
何かを企むような人柄ではないし、仮に碧の父辺りに言われてのことであったとして、わざわざ4人を魔界に集めるような手の込んだことまでしないだろう。
ただのお遊びであれば、集まる場所は人間界でもよかったはず。
魔界にいる蓮や躯が人間界にきて、大勢の強大な妖気が結集すれば、化け物とやらに何者かが動いていると悟られかねない。
彼女らが人間の保護に当たっているといっても、時には魔界や人間界で起こる怪事件の担当になることもあるのだ。
悟られれば、逃げられかねない…。
だからこそ、魔界に4人を集める必要性があった。
菓子で釣ったのも、あまり口外しないほうがいいということだろう。
そこまで考えれば、任務に自分たちを選んだ理由もうなづける。
いくら妖気の強い者たちであっても、見た目はまだ子供。
また寵は母を普通の人間としているため、霊気がさほど高くない。
潜在能力においては、他3人と互角といわれているが、本人に自覚がないため、ほとんど使えないのだ。
碧たちはまだうまくコントロールできていないまでも、制御装置をつければ、相当なところまで抑えられる。
自分の学校に春休み、遠方の友人を連れて来校……大人が行くよりは、まだ自然なのだ。
「というわけで頼むぞ」
「……」(×4)
「返事は?」
「…は〜い」
数百年前、部下を一瞬にしてミンチにしたという元・三竦みの本領発揮というか。
かなり怖〜い目で見られ、4人は結局満場一致で引き受けることにしたのだった。
その日の晩、4人は早速学校へ行った。
昼間の方が怪しまれないかとも思ったが、しかしこの時期昼間は少年野球の子供たちがしょっちゅう出入りしている。
あまり大事にはしたくなかった。
「やっぱり、警備員はいるかな」
「春休みの宿題にいるもの取りにきましたって言えば、大丈夫だろ」
「…春休みに宿題ないだろ」
「???」
相変わらず分からぬ会話をしている3人に、蓮は首をかしげながら、久しぶりにガッコーに入った。
「それにしても、何処に出るんだろう。その化け物」
一つ一つ教室を検分しながら言う寵。
化け物に特徴らしい特徴がない以上、とにかく手当たりしだいに探すしかない。
掃除用具入れを開け調べ、念入りにロッカー棚も調べていく。
「さあな。躯さんも人伝なんだから、わかんなくても無理ないけど、情報が少なすぎる」
碧は机を覗き込みながら、床下に耳をすませている。
妖気を使っては逃げられる恐れがあるため、変化はできない。
それでも、人間形態でさえ聴覚は人一倍である。
「一晩かければ、そのうち見つかるだろう。そのために昼寝しまくったんだから」
言いながら、蛍明は教室に呪を施す。
呪といっても、教室の隅に小さく盛塩をして、軽く妖気を込める程度。
これくらいならば化け物にも気づかれないだろうが、これを使って禁じ、結界を設けることで、化け物はこの空間から出ることも、空間に入ることも出来ない。
ちなみに校内へ入る前に、外門一周ぐるりと囲ってきたから、学校からは既に出られない状況。
そして調べた教室一つ一つに施していけば、最終的には一箇所に追いやられるという仕組みだ。
「……気が長い作業だな…」
天井付近(蛍光灯とか)と天井裏担当の蓮が降りてきた。
どうやらいなかったらしい。
ついた埃を叩きながら、うっとうしそうに、
「…いっそ、ガッコーごと焼けば早いだろうに」
「「「ダメ」」」(×3)
蓮ならそのうち言うだろうなと思っていたが、思いのほか早かった。
既に手に炎を灯そうとしている辺り、かなり危ない。
3人揃って振り返り、制したのは言うまでもない。
流石に3人に言われれば仕方がないと、蓮も手を下ろしたのだった。
←戻る 進む→