2.

 

 

…1階2階3階と、教室・特別教室・職員室や保健室など・廊下・トイレ・渡り廊下を調べていき、外に出て、運動場とプール、体育館に裏庭・飼育小屋も調べた。
時間がかかるのを承知で、単独行動や別行動をさけ、全員で動いた。

 

が、化け物は何処にもいなかった。

「おかしい…」
「変だよ。何処にもいないなんて…」
「逃げられるわけないしな…」
「他に見ていない場所はないのか?」

「「「う〜ん…」」」

蓮は考えても仕方が無いため、小石をもてあそんで待つことにした。
碧たちは真剣に悩む。
渡り廊下のベンチに座り込み、考える。

 

4人がかりで捜索したのだ、見落とすわけがない。
しかし、盛塩しただけで滅することなど不可能だろう。
そんなにやわな化け物であれば、わざわざ躯に要請がいったりはしない。
それなりに強いはずなのだ。

であれば、何処かで息を潜めているはず…。
なのに、化け物はおろか、人っ子一人、鼠1匹出会わなかった。

 

 

「あ」
「どうしたんだ、碧?」

碧が上げた声に、3人が同時に彼を見る。
手をうち、碧は立ち上がった。
走り出した彼を、蓮たちは慌てて追う。

 

「ま、待ってよ! 碧! っていうか、みんな!」
「ちっ」

足の速さではやや一人遅れをとる寵の腕を、蓮が強引に引っ張った。
少し痛いが、そんなことを言ってはいられない。
蛍明が一足先に碧に追いつき、横を走る。

「分かったのか?」
「ああ。一箇所見てない」
「何処だ?」
「行けば分かるよ。盲点だったね」

やや苦笑いをしながら、碧はその場所へと一目散に走った。

 

 

 

そして、そこには確かにいた。

「化け物って…」
「なるほど。成り代わってたのか」

全員でその部屋へ入り、ドアを閉める。
ざっとだがドアの外に塩をまき、出られないようにした。

 

「窓の方にはもう塩をまいてある。逃げられないよ? 化け物警備員」

そう。
碧が迷わず駆け込んだのは、警備員室だった。

見つかりたくないという心理が働き、無意識に避けた部屋。
しかし、考えてみれば、あれだけ長時間校内をうろうろしていて、一度も警備員に出会わない…いや、影さえ見かけなかったのだ。
逆に不自然である。

校外に塩をまかれたことに気づき、何者かが侵入したことを悟った。
だが、相手が子供だったことで、部屋に篭り、やり過ごそうとしたのだろう。

 

 

「殺したの…?」
「いや、人間の死臭はしない。多分、本物は軟禁されてるか、操られて別の場所へ移動させられたかだ」

碧の返事に、寵はほっと胸を撫で下ろす。
しかし、だからといって、これはしていいことではない。

 

「こういう場合はどうなるんだっけ?」
「……軟禁と操作で大分違うが、成り代わりは同じだな。霊魔法令第五章497条において、終身刑確定だ」

人間界で基本的知識の勉強していない分、その辺は疎いが、犯罪などは毎日出くわしているため、こういうことは大体覚えている蓮。
最も、犯罪に関する法令しか覚えておらず、規則や規律などは全く覚えていないというのも、どうかと思うが…。

 

「それに、これからしようとしていたことも予想がつく」
「なるほど。大方、ガキの集まる場所を根城に、少しずつ食う気だったな?」
「だったら、どうなる?」
「607条において、極刑。魂の消滅というところだ」

 

「こしゃくな! たかが小童の4匹程度! 我が食ろうて、証拠も全て滅してくれるわー!!」

分かりやすい悪役のせりふを撒き散らしながら、飛び掛ってくる化け物。
警備員の服から飛び出してきたそれは、まさしく化け物。
ベタベタとした身体を持つ、両生類的な巨大な妖怪だった。
しかし、それだけではなかった。

 

「うおおおおお!!」

化け物が咆哮を上げると、突然辺りが暗くなった。

 

「な、何だ?」
「…異空間というやつか」
「え、それって裏男みたいなやつか?」

父からかつて仙水という男との戦いの際、そういう妖怪がいて梃子摺ったと聞いたことがある碧が問いかける。
しかし、蓮は首を振った。

「あれほど厄介ではないだろう。亜空間ではなく、自らの妖気で作り出した別空間だ。やつを倒せば、自然と晴れる」
「なるほどな」
「だが、わざわざこんな風にした以上、この空間がヤツにとって、優位であることは確かだろうな」

蛍明が蓮の言葉を引き継ぎ、同時に構えを取った。
蓮も剣を構える。
碧も少し考え…そのままの姿で構えを取った。

 

「制御装置は外すか?」
「下手をすれば、空間だけじゃなくて、学校にも被害が及ぶよ。やめたほうがいい」

 

 

 

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